人を「感動」させるフレーズ
おととい、読売新聞を読んでいたら、以下のような記事に出くわした。

誠に衝撃を受け、「なんとかしなければならない」という義憤の念にかられたが、それ以上に、この記事内のあるフレーズに、なぜだか知らないがあまりにも「ぴん」ときてしまった。
それは記事の写真下部の左側の段落の始めの文章である。
「一つだけ大切な思い出がある。」
これである。
このフレーズに、私はなんだかえもいわれぬ感動、感銘を受けてしまった。
いやしかし、それは記事の文脈からそのフレーズに「きて」しまったというものではない。
そのフレーズの持つ、本来的な芸術性、或いはぬくもりをそこに感じざるを得なかったからだ。
「はァ? なにいってんのこの人?」
と、ひょっとしたらお思いになるかもしれない。
しかし、なんだか私自身もうまく説明がつかないのだ。
ともかくも、
「一つだけ大切な思い出がある。」
このフレーズがなぜか、なんとなく、あまりにも「グッ」ときてしまったのだ。
それを発音したときの音的な綺麗さ、また言葉の意味的な温かさ、そしてなによりもこのフレーズに続くであろうと思われる「良き」物語が、この
「一つだけ大切な思い出がある。」
というフレーズから想起あるいは感じざるを得なかったのだ。
「はぁ、そいですか・・・。」
と、「いち、にの、、ポカン!」もとい、ポカンとした皆さんのお顔が容易に想起できるのだが、私は何よりも言葉という言葉が好きなのだ。
ゆえに、ある種の言葉、フレーズに出くわすと、なんだか居ても立ってもいられないというか、歯がゆくも悶絶するような、或いはムラムラするような、そんな気分が訪れる性癖(?)なのだ。
そして今回、このフレーズに出会って、そこで得た感動を書かずにいられなかったので、こうして今書いている訳である。
尻切れとんぼ的フレーズの効果
読売新聞の記事内のフレーズについての「感動」を考察してきた。
欲を言えばあのフレーズ、「。」でおわるより、「から」でおわった方が、より「効果」を発揮するものとなったのではないか、とふと読み返して思った。
つまり、
「一つだけ大切な思い出がある。」
ではなく、
「一つだけ大切な思い出があるから」
のほうが文学的感動をもたらすものではあるまいか、 と思わずにいられなかったのだ。
例えば、絢香の楽曲に、「君がいるから」というものがある。
絢香 君がいるから mpeg2video - YouTube
この曲、正直申し上げて特に好き、というわけでは全然ないのだが、題名が誠に秀逸ではあるまいか、と思われてならない。
「君がいるから」。
これは聞いて頂ければ分かるのだが、愛の唄である。
つまり、「君がいるから」に続く言葉は、絶対的愛なる言葉、「君」への全肯定の言葉、祝福、歓喜、感動、幸福なる感情がうずまき、それらすべて結果的に相乗効果を発揮する、「愛の言葉」が続く(と思う)。
しかし絢香はそこまであえて言わず、
「君がいるから」
と、尻切れとんぼにとどめている。
これは、読者(オーディエンス)に、その続きを想像(創造)させる言葉である。
尻切れとんぼ的フレーズ。
これは一見したところ、読み手にとってはすっきりしないところであるが、そのすっきりしない感があるからこそ、読み手である私たちは自由に「その先」を想像(創造)できる点において、歌い手、書き手、といった創作者と平等な位置に到達することがまた、できるのである。
つまり、尻切れとんぼ的フレーズには感動や想像(創造)力を歓喜させるという、一つの教育的効果を発揮させるものではないだろうか。
尻切れとんぼ的フレーズは余韻を残すゆえに、一つの文学的効果を発する手法とも言えるが、それゆえに教育的効果をも発するものではないか、と思われる。
これを更に突き詰めていくと、人生にもそれは関係していくものではないか、と思われた。
尻切れとんぼ的フレーズとは、作者と読者とで一つの、或いは無限の作品を作り上げていかんとする「共同作業」とも言えよう。
これは、我々の始祖が、今後悠久に健やかに繁栄していくために、個々で独立して生存することを止め、家を造り、家族を作り、村的共同体を作り、企業的共同体を作っていったことと関係していないはずがないと思われる。
尻切れとんぼ的フレーズ、或いはすべての尻切れとんぼ的なるものーーー
これは一見「中途半端」で「半人前」な感が否めない。
しかし、そうであるからこそ、我々の始祖たちはその点を悠久繁栄において重要だとし、「助け合い」「相互扶助」「協力」「利他」「思いやり」などが、現代に生きる我々にとっても誠に重要なものであるのではないだろうか。
「…ちょっとなに言ってるのかわからないです。」
という声が聞こえてきそうである。
要するに私が言いたかったことは、あらゆる尻切れとんぼ的なる事象は、文学的ばかりか、歴史的意味があるのではないだろうか、と思うのであります。